味の素KK健康基盤研究所
初代所長 東京大学名誉教授インタビュー Vol.02

味の素KKフロンティア研究所所長インタビュー
味の素KK健康基盤研究所 初代所長 東京大学名誉教授インタビュー

健康基盤研究所 初代所長
東京大学名誉教授 農学博士

高橋 迪雄インタビュー

ヒトという生物の不思議を解き明かすために

本来のあなたらしい、いきいきとした毎日を送ってほしい。
これが、味の素KKの願いです。

Vol.2 長い時間をかけて進化してきたヒトは、様々な生きる力を蓄えてきました。

 ヒトの生きる力の不思議を進化の過程から考える

大昔に遡ってヒトを見つめなおすことで、ヒトが獲得してきた『生きる力』の不思議を紐解いていこうとされているのですか?

高橋

環境や生態に適応する事が出来なかった種は必ず滅びてしまいますから、ヒトが600万年もの長い間生き続けてきたという事実は、それ以前はもとより、その間にもヒトが様々な生理機能、すなわち生きる力を蓄えてきたことを意味しています。
キリンは首の短い草食動物が食べられないような高い木の葉っぱを食べることで、現代まで生き残ってきたと考えられます。これは、キリンの祖先になる動物に遺伝子(多分複数の)の変異が起こり、世代を重ねていくことで現在見られるような首の長い遺伝的な性質が定着していったことによるのでしょう。そうやって進化・適応を遂げたもの、つまり生きる力を蓄えてきたものだけが現在も生き残っています。ですから、寿命が短くて、突然変異体がその種の多数派になるまでに時間がかからない生物の方が環境に適応しやすいといえますね。バクテリアがその一例で、地球上の様々な環境に適応して繁栄しています。逆に恐竜などは適応力が低かったため滅びてしまったんです。
ヒトが何に対しての適応力を高めることで進化し続けてきたのか。それはどのような生きる力になって我々に蓄積されてきたのか。ということを常に考えて研究を重ねているわけなんです。

進化を前提にヒトの生理機能を考えていくことについて、わかりやすい例でお話いただけますか?

高橋

そうですね・・・。例えば、女性に月経があることは私にとってはとても不思議です。月経は多分女性にとって大変わずらわしいものに違いないと思います。実は、高等な霊長類には皆月経があるのですが、何故ヒトにもこのような一見役に立たない現象が残っているのでしょう?結論としては、人類の歴史の殆ど全ての間、成人女性は妊娠しているか哺乳しているかで、妊娠、哺乳期間中は月経周期がなくなるため、月経は現代の女性が感じているほどわずらわしいものではなかったのではないか、と。チンパンジーやゴリラ、アフリカの狩猟採取生活を営んでいる人たちを調べてみると、3,4年哺乳して、哺乳が終わる頃にまた排卵して再び妊娠して・・・というサイクルを営んでいます。つまり、4,5年かけて1子を産み、育てている。そういうサイクルで生涯に子供を数人産んでいれば、極論で言うと、その間は1回も月経がないわけです。だからこそ月経という現象が現在まで残ってしまっていてもおかしくない、という考え方ですね。
そのように考えると、去年の平均出産率が1.29という現代人の生殖様式は「自然でない」ことは確かです。こうなった理由は色々考えられますが・・・・。

他の生物に比べて知能が発達してきたヒトですが、ヒトの特徴はどういうところにあるとお考えですか?

高橋

ヒトは大脳皮質が極限的に発達していることが、他の動物とは決定的に違います。大脳の発達は、言葉を使えるという能力と強くリンクしていたのでしょう。
生物が自分の蓄えた情報を次世代に伝える手段は、基本的に遺伝子しかありません。ところが、ヒトは言葉もあるし文字もある、そういったもので次世代に自分の情報を伝える事が出来ますよね。すなわち文字文化というものが、人間とその他の生物とを区別している最大のポイントなんです。文字があることで、アインシュタインのように突出した人の考え方や理解の仕方が皆に伝わっていきます。すると、やがてはそれを理解し、説明できる人が現れ、次世代の考え方や理解の仕方は、新たにそこから出発することができます。天才と呼ばれる人は数えるほどしかいませんでしたが、その人たちのおかげで皆の知識レベルが上がり、文明が進んだといえます。こういったことは、遺伝子による次世代への情報伝達とは違うパラダイムですよね。だから本来の「生き物としてのヒト」と文明人はドンドン解離していくことが避けられません。
ただし、動物も遺伝子だけでしか次世代に情報を残せないわけではないんです。インプリンティング(刷り込み)という形を使っているのです。

インプリンティングとはどういうものなのですか?

高橋

ここで言うインプリンティングとは、生後ごく早い時期に起こる特殊な形の学習のことです。敵味方の区別をしたり、食べ物を選別したりといった、遺伝子だけでは伝える事が出来ない部分です。カモなどの鳥類の雛が、出世後最初に見た動く物体について行こうとする、という話はとても有名ですよね。生後にインプリンティングが起こるということは、環境に適応するためにとても大切な役割を果たしています。ヒトにとってもインプリンティングはとても大事な事です。例えば、ヒトは3歳を過ぎると喋りだしますよね。ヒトは遺伝的に言葉を喋る能力というものは基本的に保証されています。しかし、文法が頭の中に定着するのはインプリンティングによるものと考えられますから、日本語でインプリンティングされてしまったら英語はインプリンティングされにくい、といった仕組みになっているんです。
ヒトは遺伝子情報に加えてインプリンティング、ヒト固有の文字を使って自らの種を発展させてきました。ですから、私は、ヒトの持つ生きる力を考えていく上では、遺伝子や細胞レベルの話だけではなく、環境や社会といったことも非常に大切な考えるべき要素だと思っているんです。

ヒトの生きる力の不思議は、進化なくしては語れない事が分かりましたね。 次回は、ヒトが生きていくために不可欠な『食』についてのお話を伺いたいと思います。

◆バックナンバー
Vol.7

ヒトが本来持っている生きる力を常に考えて研究を続け、研究の成果を信頼頂ける商品を通じて人々に伝えていくこと。これが我々の願いです。

Vol.6

新しい素材としてアミノ酸や植物素材の機能を研究し、ヒトの健康に生きる力をサポートしていきたいと願っています。

Vol.5

ヒトが健康に生きていくためには、必須アミノ酸も非必須アミノ酸も欠くことのできないものなのです。

Vol.4

アミノ酸から作られるたんぱく質は、生命の営みを維持するために、とても重要な働きをしています。

Vol.3

食物から得られるエネルギーは、ヒトの生きる力の源となります。

Vol.2

長い時間をかけて進化してきたヒトは、様々な生きる力を蓄えてきました。

Vol.1

ヒトを生物として考えることで、潜在的な生き力の原点が見えてくる。

ヒトという生物の不思議を解き明かすために

本来のあなたらしい、いきいきとした毎日を送ってほしい。
これが、味の素KKの願いです。

Vol.2 長い時間をかけて進化してきたヒトは、様々な生きる力を蓄えてきました。

 ヒトの生きる力の不思議を進化の過程から考える

大昔に遡ってヒトを見つめなおすことで、ヒトが獲得してきた『生きる力』の不思議を紐解いていこうとされているのですか?

高橋

環境や生態に適応する事が出来なかった種は必ず滅びてしまいますから、ヒトが600万年もの長い間生き続けてきたという事実は、それ以前はもとより、その間にもヒトが様々な生理機能、すなわち生きる力を蓄えてきたことを意味しています。
キリンは首の短い草食動物が食べられないような高い木の葉っぱを食べることで、現代まで生き残ってきたと考えられます。これは、キリンの祖先になる動物に遺伝子(多分複数の)の変異が起こり、世代を重ねていくことで現在見られるような首の長い遺伝的な性質が定着していったことによるのでしょう。そうやって進化・適応を遂げたもの、つまり生きる力を蓄えてきたものだけが現在も生き残っています。ですから、寿命が短くて、突然変異体がその種の多数派になるまでに時間がかからない生物の方が環境に適応しやすいといえますね。バクテリアがその一例で、地球上の様々な環境に適応して繁栄しています。逆に恐竜などは適応力が低かったため滅びてしまったんです。
ヒトが何に対しての適応力を高めることで進化し続けてきたのか。それはどのような生きる力になって我々に蓄積されてきたのか。ということを常に考えて研究を重ねているわけなんです。

進化を前提にヒトの生理機能を考えていくことについて、わかりやすい例でお話いただけますか?

高橋

そうですね・・・。例えば、女性に月経があることは私にとってはとても不思議です。月経は多分女性にとって大変わずらわしいものに違いないと思います。実は、高等な霊長類には皆月経があるのですが、何故ヒトにもこのような一見役に立たない現象が残っているのでしょう?結論としては、人類の歴史の殆ど全ての間、成人女性は妊娠しているか哺乳しているかで、妊娠、哺乳期間中は月経周期がなくなるため、月経は現代の女性が感じているほどわずらわしいものではなかったのではないか、と。チンパンジーやゴリラ、アフリカの狩猟採取生活を営んでいる人たちを調べてみると、3,4年哺乳して、哺乳が終わる頃にまた排卵して再び妊娠して・・・というサイクルを営んでいます。つまり、4,5年かけて1子を産み、育てている。そういうサイクルで生涯に子供を数人産んでいれば、極論で言うと、その間は1回も月経がないわけです。だからこそ月経という現象が現在まで残ってしまっていてもおかしくない、という考え方ですね。
そのように考えると、去年の平均出産率が1.29という現代人の生殖様式は「自然でない」ことは確かです。こうなった理由は色々考えられますが・・・・。

他の生物に比べて知能が発達してきたヒトですが、ヒトの特徴はどういうところにあるとお考えですか?

高橋

ヒトは大脳皮質が極限的に発達していることが、他の動物とは決定的に違います。大脳の発達は、言葉を使えるという能力と強くリンクしていたのでしょう。
生物が自分の蓄えた情報を次世代に伝える手段は、基本的に遺伝子しかありません。ところが、ヒトは言葉もあるし文字もある、そういったもので次世代に自分の情報を伝える事が出来ますよね。すなわち文字文化というものが、人間とその他の生物とを区別している最大のポイントなんです。文字があることで、アインシュタインのように突出した人の考え方や理解の仕方が皆に伝わっていきます。すると、やがてはそれを理解し、説明できる人が現れ、次世代の考え方や理解の仕方は、新たにそこから出発することができます。天才と呼ばれる人は数えるほどしかいませんでしたが、その人たちのおかげで皆の知識レベルが上がり、文明が進んだといえます。こういったことは、遺伝子による次世代への情報伝達とは違うパラダイムですよね。だから本来の「生き物としてのヒト」と文明人はドンドン解離していくことが避けられません。
ただし、動物も遺伝子だけでしか次世代に情報を残せないわけではないんです。インプリンティング(刷り込み)という形を使っているのです。

インプリンティングとはどういうものなのですか?

高橋

ここで言うインプリンティングとは、生後ごく早い時期に起こる特殊な形の学習のことです。敵味方の区別をしたり、食べ物を選別したりといった、遺伝子だけでは伝える事が出来ない部分です。カモなどの鳥類の雛が、出世後最初に見た動く物体について行こうとする、という話はとても有名ですよね。生後にインプリンティングが起こるということは、環境に適応するためにとても大切な役割を果たしています。ヒトにとってもインプリンティングはとても大事な事です。例えば、ヒトは3歳を過ぎると喋りだしますよね。ヒトは遺伝的に言葉を喋る能力というものは基本的に保証されています。しかし、文法が頭の中に定着するのはインプリンティングによるものと考えられますから、日本語でインプリンティングされてしまったら英語はインプリンティングされにくい、といった仕組みになっているんです。
ヒトは遺伝子情報に加えてインプリンティング、ヒト固有の文字を使って自らの種を発展させてきました。ですから、私は、ヒトの持つ生きる力を考えていく上では、遺伝子や細胞レベルの話だけではなく、環境や社会といったことも非常に大切な考えるべき要素だと思っているんです。

ヒトの生きる力の不思議は、進化なくしては語れない事が分かりましたね。 次回は、ヒトが生きていくために不可欠な『食』についてのお話を伺いたいと思います。

◆バックナンバー
Vol.7

ヒトが本来持っている生きる力を常に考えて研究を続け、研究の成果を信頼頂ける商品を通じて人々に伝えていくこと。これが我々の願いです。

Vol.6

新しい素材としてアミノ酸や植物素材の機能を研究し、ヒトの健康に生きる力をサポートしていきたいと願っています。

Vol.5

ヒトが健康に生きていくためには、必須アミノ酸も非必須アミノ酸も欠くことのできないものなのです。

Vol.4

アミノ酸から作られるたんぱく質は、生命の営みを維持するために、とても重要な働きをしています。

Vol.3

食物から得られるエネルギーは、ヒトの生きる力の源となります。

Vol.2

長い時間をかけて進化してきたヒトは、様々な生きる力を蓄えてきました。

Vol.1

ヒトを生物として考えることで、潜在的な生き力の原点が見えてくる。