味の素KK健康基盤研究所
初代所長 東京大学名誉教授インタビュー Vol.05

味の素KKフロンティア研究所所長インタビュー
味の素KK健康基盤研究所 初代所長 東京大学名誉教授インタビュー

健康基盤研究所 初代所長
東京大学名誉教授 農学博士

高橋 迪雄インタビュー

ヒトという生物の不思議を解き明かすために

本来のあなたらしい、いきいきとした毎日を送ってほしい。
これが、味の素KKの願いです。

Vol.5 ヒトが健康に生きていくためには、必須アミノ酸も非必須アミノ酸も欠くことのできないものなのです。

 必須アミノ酸と非必須アミノ酸

『必須アミノ酸』と『非必須アミノ酸』それぞれについて詳しくご説明いただけますか?

高橋

まず前回の復習を少々いたしましょうか。ヒトが自分自身で作る事の出来ないアミノ酸、すなわちビタミンのように食物から摂取するアミノ酸を『必須アミノ酸』と、自分で作っているアミノ酸、すなわち必ずしも食物からとる必要はないが生物学的に必須のアミノ酸を『非必須アミノ酸』と定義づけされていることをお話しましたよね。20種類のアミノ酸は全てが生物にとって『必須』なのですが、これらの言葉は、食物から摂取する事が必須かどうかという点から区別されています。『非必須アミノ酸だから余計なものだ』などと誤解を招きやすいネーミングかもしれませんね。

食物からとることが必須か否かという観点から定義されているのですね。必須アミノ酸と非必須アミノ酸の具体的な名前は?

高橋

必須アミノ酸は、『バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン(トレオニン)、メチオニン、リジン(リシン)、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファン』の9種類、そして非必須アミノ酸は、『グリシン、アラニン、セリン、プロリン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン』の11種類になります。いくつかは聞いたことのある名前でしょう?ただし、細かく言い出すと、2つの分け方は色々問題がないわけでないので、本当は具体的な名前は出したくなかったのですが・・・・。

必須アミノ酸を『栄養アミノ酸』、非必須アミノ酸を『機能アミノ酸』と言い換えられると考えていらっしゃるのは?

高橋

必須アミノ酸は身体の機能を維持していく栄養として絶対に必要なものです。しかし、ビタミン類と同じように、進化の過程で動物は自分で作るのを止めてしまいました。普通の食物から、結果として必要量が得られるのであれば、自分で作るという負担から免れた方が生きていくうえでプラスになるからですね。無駄を省いて、その余力を他のさらに重要なところへ向けることが出来ますからね。生物は自分の機能を環境に適応させつつ進化していきます。動物は植物や微生物とは異なり、たんぱく質合成に必要なアミノ酸の約半分の合成をやめるという大きな選択を行った生物ということもできますね。
一方、非必須アミノ酸も『普通の食物から、結果として必要量が得られる』という枠組みは変わっていません。なぜ作るのをやめなかったのでしょう?『作り続けなくてはならない理由があったからこそ』と考えるのが自然でしょう。非必須アミノ酸の本質は、『特定の場所で、特定の時期に、特定の条件下で作られて、特定の機能を持つ』ことであると考えています。例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシンは神経伝達物質として機能しています。もし、それらが食物からしか摂取できないとしたら、食べたものが変われば、自分の神経活動も変わってしまうという理屈になりますね。ですから、非必須アミノ酸はたとえ食物から得られるとしても、自身で作り出す能力を失うことができないのです。

非必須アミノ酸に機能があることはわかりましたが、どんな機能があるのですか?

高橋

痛い質問です。神経伝達物質という神経活動に無くてはならない機能を持つ非必須アミノ酸があると言いました。また、それ以外にも様々な機能を持つことは容易に想像できるのですが、それらのすべてが調べつくされているわけではありません。しかしこの段階でも、非必須アミノ酸は作る必要があって作っているのですから、非必須アミノ酸の必要性が十分に満足できない状況下におかれる時には、何らかの健康問題が起きることは容易に想像されます。私達は当面このような健康問題とからめて、アミノ酸を摂取することである種の健康問題が解決できる場合があることを示す努力をしています。幸運にしてわれわれがいくつかの例を示していくことができれば、将来は、アミノ酸全体の健康価値についてもっともっと理解が深まってくると思いますよ。

必須アミノ酸と非必須アミノ酸、それぞれがヒトの健康を維持していくために重要な役割を担っているのですね。次回は、アミノ酸や植物素材を使った研究への取り組みについてのお話を伺いたいと思います。

◆バックナンバー
Vol.7

ヒトが本来持っている生きる力を常に考えて研究を続け、研究の成果を信頼頂ける商品を通じて人々に伝えていくこと。これが我々の願いです。

Vol.6

新しい素材としてアミノ酸や植物素材の機能を研究し、ヒトの健康に生きる力をサポートしていきたいと願っています。

Vol.5

ヒトが健康に生きていくためには、必須アミノ酸も非必須アミノ酸も欠くことのできないものなのです。

Vol.4

アミノ酸から作られるたんぱく質は、生命の営みを維持するために、とても重要な働きをしています。

Vol.3

食物から得られるエネルギーは、ヒトの生きる力の源となります。

Vol.2

長い時間をかけて進化してきたヒトは、様々な生きる力を蓄えてきました。

Vol.1

ヒトを生物として考えることで、潜在的な生き力の原点が見えてくる。