味の素KK健康基盤研究所
初代所長 東京大学名誉教授インタビュー Vol.07

味の素KKフロンティア研究所所長インタビュー
味の素KK健康基盤研究所 初代所長 東京大学名誉教授インタビュー

健康基盤研究所 初代所長
東京大学名誉教授 農学博士

高橋 迪雄インタビュー

ヒトという生物の不思議を解き明かすために

本来のあなたらしい、いきいきとした毎日を送ってほしい。
これが、味の素KKの願いです。

Vol.7 ヒトが本来持っている生きる力を常に考えて研究を続け、研究の成果を信頼頂ける商品を通じて人々に伝えていくこと。これがわれわれの願いです。

 味の素KKでは、ヒトの健康に生きる力をどのようにサポートしたいと考えているのでしょうか?

加齢に伴って身体が衰えていきますが、これは避けられないことなのでしょうね?。

高橋

現代の人が昔の人と大きく違っている点として、現代人は昔には無かった長い寿命を生きているということが挙げられます。子孫繁栄という観点から見れば、つまり、生物としてのヒトという観点から見れば、生殖年齢を越えたヒト達は、次世代を生み出しているヒト達、あるいはその年代に向けて成長しているヒト達にとって、生存に関わる、例えば、食物を得るとかにおいて最大の競争者になってしまうことは避けられません。そのような意味で、生殖年齢を越えたヒト達は早々に寿命が尽きる、ということがいわば自然の摂理だったのですね。少しどぎつい言葉になってしまって恐縮ですが、生殖年齢を越えたヒト達が円満に寿命を終えていたことが、人間が哺乳類の一つの種として長い歴史を越えて今まで滅びることなく生き延びてきている大きな理由なのです。

寿命が延びることで、多くの人が加齢に伴う変化に対処しなくてはならなくなったと・・・・・。

高橋

その通りです。比較的容易に十分な食物が得られるようになったこと、また近世の医学の画期的な進歩によって、私達は、もちろんこう言っている私もまさに該当者ですが、生殖年齢が終わっても相当長く生き続けることが出来るようになっています。しかし若い時代の身体の状態とは明からに異なっていますね。それが、加齢性の変化で、顔のしわ、白髪、老眼などは誰でも気が付く変化ですが、身体のさまざまな仕組みにも着実に変化が起きていることは容易に想像できますよね。これらの加齢性の変化は、本来は生殖年齢を越えたヒト達が円満に寿命を終えるための生物学的仕組みであったわけですが、現代のように寿命が著しく延びてくると、せっかく生きているのですから、若い時代のパフォーマンスをなるべく維持したいと考えるのは当然です。われわれは「そういった加齢性の変化をどうやったら遅らせられるだろうか」ということを常に念頭におきながら研究を行っています。元々良い状態があってそれが悪いほうに変化していくということですから、医療のように「治す」というより、その人が本来持っていた良い状態をどのように「保つ」のかを考えたいのです。

いわゆる生活習慣病予防の問題ですね。

高橋

生活習慣病と言ってしまうと、本来は発症しないはずの病気が「悪しき生活習慣」によって発症したと考えがちですが、それは大きく捉えると必ずしも正しい考え方とは言えないと思います。ヒトを含めてどんな動物にも寿命があるのは厳粛な事実ですから、寿命が尽きる前にはさまざまな不具合が生まれてくるのは致し方ありません。ある種の生活習慣を直せば、ある加齢性の変化を遅らせることは可能でしょうが、全ての「生活習慣病」の発症を抑えることはもともと不可能なことです。その意味では昔のように成人病、あるいは欧米で言われているように「加齢性疾病」と呼ぶほうが誤解は少ないのかも知れませんね。例えば本来のヒトは、狩猟採取生活の時代も、農業が始まった以降も、日中はほとんど休み無く動き回っていたはずです。現代は日中のほとんどを机の前で座って過ごす人も決してまれではありませんね。健康という面からは、机の前にずっと座って過ごすのは間違いなく「悪しき生活習慣」ですが、さればと言って、ほとんど全ての人が日中動き回っているのでは、現代の文明社会が成り立たないのも事実でしょう。

生活習慣の改善だけでは不十分で、さらに「治療」でもないというと?

高橋

例えば、「血管年齢」という言葉がありますが、これは多くの人々を平均すれば、年齢と共に着実に血管の硬化などが進み、機能が衰えていることを表しています。ある50歳の人の血管年齢が65歳だったとします。血管に関しては明らかに不健康な人ですね。そのまま放っておくと、60歳になった時には血管年齢が 80歳になってしまうといった状況が起こり得ますよね。そういう人の血管年齢を65歳のところで食い止めたり、そこまではいかなくても、その速度を遅らせたりすることができれば、だんだん実年齢が血管年齢に追いついてきて、そのうち平均的なレベルになることができますね。無理に若返りを図るのではなく、その人のより若い時のパフォーマンスをなるべく長く残していきましょう、ということを目指したいのです。その“血管が不健康な人”は、実際はある種の生活習慣によって加齢性の変化が突出して起こってしまったのかもしれませんが、そうなってしまった以上は、何らかの手立てで、多少時間が掛かっても、少なくとも人々の平均的なレベルまで戻れるようにサポートすることが出来ればと思っているんですよ。

素晴らしいお考えだとは思いますが、大変難しいことにチャレンジされているように思えますが。

高橋

そうですね。でも、味の素(株)のサプリメントの候補としての幾つかの素材の研究を実際に進めていますと、われわれの及ぶ範囲はもちろん限られますが、それなりの結果は必ず出せると信じています。話が抽象的になって恐縮ですが、ここ二、三十年の生物学の進歩はまさに画期的なものがあります。その成果は医療の分野の進歩として実感されている部分も多いかと思います。このような生物学の進歩は、当然「人々の健康を守る」という場面でも活かされなければならないものですし、実際にそれは可能だと思っていますよ。

その点、もう少し具体的にお聞かせいただけますか?

高橋

われわれは、「医薬品」でなく、アミノ酸あるいは植物由来の素材を基にした「食品」を通じて、「病気を治す」のではなく、「病気に少しでもかかり難くする」ことを考えています。科学技術が進み、学問が深くなっていくことで、研究はだんだん分析的になって、専門化され、守備範囲が狭くなっていくのは当然ですね。しかし、人は肝臓だけでも、心臓だけでも、腎臓だけでも生きているわけでありません。何か重い病気に一つかかれば、それが引き金になっていろいろな病気が併発してくることがありますね。「健康」についても、例えば睡眠がうまく取れなければ、さまざまな健康問題が派生してきます。われわれのミッションは、個々の臓器の個々の病気を追うというようなやり方でなく、個々人の全体としてのパフォーマンスを常に念頭において「健康」を考えることだと思っています。ここまで、しばしば『本来の人間はどういうものだったのか?』ということに触れてきましたが、現代のわれわれは本来のヒトの生き方と異なる生き方をしており、それが問題を起こしていると考えることは一つの大切な眼の付け所であると考えています。健康を損なうような事態の根底にはこのような問題がきっとあるに違いありません。

人々の健康をトータルでサポートしていきたい、というのが研究所の願いなのですね。

高橋

われわれの研究所発のサプリメントは、今後少しずつアイテムが増えていくでしょう。アイテムが増えていけば、加速度的に様々な組み合わせができるようになります。そして、消費者の方に、それらのアイテムの素材がどのようなメカニズムで働いているのかを分かっていただくような努力を続ければ、最終的には自分で納得された形でアイテムの組み合わせをある程度設計してもらえるようになると思うのです。そうなれば非常に嬉しいですね。われわれの研究を具体的に理解していただく最も手っ取り早い方法も、商品のラインナップを増やすことに尽きますね。これまで何度も言ってきましたが、われわれの研究の根底には常に、本来の人間はどういうものかということ、つまり『生物としてヒトを考える』ということがあります。個々の素材のメカニズムはもちろんですが、ヒトという生物の生きる力のメカニズムも一緒に考えていただけるような枠組みを作り、皆さんとコミュニケーションが図れれば、よりいっそう皆さまの(私自身も含めて!)健康のサポートに役立てると確信しています。

味の素KK健康基盤研究所 初代所長 東京大学名誉教授インタビューは終了いたします。長い間ご愛読いただきまして誠にありがとうございました。

◆バックナンバー
Vol.7

ヒトが本来持っている生きる力を常に考えて研究を続け、研究の成果を信頼頂ける商品を通じて人々に伝えていくこと。これが我々の願いです。

Vol.6

新しい素材としてアミノ酸や植物素材の機能を研究し、ヒトの健康に生きる力をサポートしていきたいと願っています。

Vol.5

ヒトが健康に生きていくためには、必須アミノ酸も非必須アミノ酸も欠くことのできないものなのです。

Vol.4

アミノ酸から作られるたんぱく質は、生命の営みを維持するために、とても重要な働きをしています。

Vol.3

食物から得られるエネルギーは、ヒトの生きる力の源となります。

Vol.2

長い時間をかけて進化してきたヒトは、様々な生きる力を蓄えてきました。

Vol.1

ヒトを生物として考えることで、潜在的な生き力の原点が見えてくる。